昔書きましたシリーズ【美しくは成れぬ】

2009年03月19日

昔、精神安定剤をお菓子だと言っていた男がいました。

何が言いたいのかよくわからなくて、

「それは薬で悪いところを治すもので、お菓子じゃないですよ」

と女の子は言いました。

男は、

「まだまだ子供だな」

と返しました。

ますます意味がわからない女の子は、ただただ首を傾げるだけでした。

女の子はやがて大人になり、自身も安定剤が無いと生活ができなくなってしまいました。

しかし、未だにそれがお菓子だとは思えません。

お菓子は幸せにしてくれるもので、不安を解消してくれるものではないのです。

それとも、あの男は幸せになりたいから安定剤を【食べて】いたのでしょうか。

もう知る術はありませんが、ただ一つ解ることがあります。

【私はあの男が好きではなかった】

ということ。

彼が最後に泣きながら落とした言葉が染み込んだ床を雑巾で擦りながら、彼女は吐気を感じたのでした。

(2008/03/14)  

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昔書きましたシリーズ【美しい街】

2009年03月19日

もしも、とか、だったらいいのに、とか、全部意味の無い言葉だって知っています。

もしも美しい声だったら。
もしも美しい容姿だったら。
もしも美しい行きかただったら。

あらゆるもしもは美しい。
あるいは面白い。
あるいは優しい。

忠告も全て無視する彼女が美しいわけもなく、汚らしい見た目は嘲笑われる。
あるいは洗われたとすれば?
現実逃避もいいところでございます。

彼女は、自身を洗ってくれる人を探して美しい街を彷徨い続ける。

もしも彼と笑えたら。
もしも彼が洗ってくれる唯一の人だとすれば。

そんなもしもは通用しなくってよ。
ドリフのもしもシリーズは秀逸ですもの。


美しい街に行きたい。
素直に生きたい。


(April 27, 2005)  

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昔書きましたシリーズ【夢で見た話】

2009年03月19日

私はずっと彼が好きで、見るだけでも満たされていて、会うと何も言えなくなって、たぶん彼の目には私がつまんない女に映っていたんだと思う。

だから私の隣りには違う男がいた。

彼の友達であるその男は、よく私の手を触った。
正確に言えば、繋いだ。
ただ私の感覚はあくまで「触った」としか捉えなかっただけだ。

私はその男と暮らしていた。
男は私のことを大事にしてくれて、私もその生活は嫌いではなかった。
嫌いではない。満たされていないだけ。


彼は女と暮らしていた。
私とは比べ物にならない程の可愛らしい女だった。
栗色のウェーブの髪の毛がよく似合う、とても可愛らしい、ファニーフェイスの女。
彼は十分に満たされているようだった。
いつものように、口元だけ笑っていたけれど。
男のように、全てを使って喜を表現することはなかったけれど。

だから悔しかった。
女が男と別の場所で生活を送っていたという事実が。


私と彼は騙されていた。
騙していたという自覚は二人にはなかったのかもしれない。
女は男を選び、男は女を選んだ。
ただそれだけの、単純なことだった。


部屋を出て行く時、男はとても不可解な表情を私に向けた。
自嘲とも取れる、困ったような笑顔だった。
私は何を感じるわけでもなく、ぼんやりとその顔を見ていた。
男が視界から消えても、視線を動かすこともなく、ぼんやりと突っ立っていた。

と、足下から何かが崩れ落ちた。
私の身体だ。
玄関に座り込んでしまったんだと気付くまで、少しだけ時間がかかった。

大切なものとは感じていなかった空間が消えてしまったら、ぽっかりと穴が開いた。
その大きさに驚いたのだ。
それはとてつもなく大きな穴で。

満たすものと埋めるものは非情にも酷似していたのだ。
私は立ち上がれなくなってしまった。
残ったものはあまりにも小さすぎる。

これじゃ何もできないよ……。



玄関のドアを軽くノックする音が聞こえたような気がした。
弱々しく視線を後ろに向けると、彼がいた。
弱々しい笑みを浮かべて。
好きで好きで、好き過ぎて何も言えなかった彼。
その手が私の頬を伝う液体を拭っても、立ち上がる事はできなかった。

唇を重ねたところで、それには何の意味も無かった。
抱き合ったところで、空間が埋まる事も、満たす事も無かった。
それは彼にも言えた事だろうと、無意識に思う。



彼と暮らし始めたのも、開いた空間を埋めるだけに過ぎなかった。
あんなに好きだったのに。
あんなに夢見ていた事なのに。

私と彼は、心に秘密の銃を隠して、それらしい幸せを演じている。



満たすものは、埋めるだけのものへと変わっていた。


そういう、笑えない幸せな夢の話。


(June 16, 2005)  

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